七月六日午前八時頃下山総裁邸に於いて捜査二課巡査石川丑之助は、牧胤吉及下山常夫氏との会談状況を聞込んだ。
元総裁下僚橋本が七月五日午後九時三十分頃失踪事件を聞いて下山邸に行った午前二時半頃上野管理部より北千住綾瀬駅間の轢死体が総裁であるとの報を受けた。丁度午前七時頃牧が弔問に来た。同人は元鉄道時代より(下山氏と)厚誼にして居り現在参議院に居ると言う。一応挨拶の後、何んの為め三越へ行ったであろう、家族の方もぼんやりしては居られない、考えなきやならん、ただふらふらと死んだ訳でもなかろうと思うが。
橋本
総裁はただふらふらと死ぬ様なそんな人ではない。自殺か、他殺か判らないが、自殺をするとしても悩みに悩んでこれ以外に自分の取る方法はないと考えてのことでしょう。死んだ事は仕方ないがただこの死を犬死させたくない、と言うと、
牧は
兎に角総裁は自分の身を犠牲にして国鉄労組の円滑を計るためにやったと思う。
本当に犬死に終らしたくない。自殺としたら遺書位あるでしょうと言ったので探したのですが遺言はないと答えた。尚、下山常夫、橋本氏に応接室で、牧は、若し氏の轢死が自殺であるとするならば氏の死を犬死させぬ為に、九万五千人の従業員の首切るのは自分の本意ではないが、自分は皆んなの為に死んでお詫びすると言う遺書を貴方の手で書いてそれを新聞に発表すれば、それが写真にでも出れば労組の者や従業員も気の毒に思い争議もーべんにおさまることであろうし又国民も同情することであろうし、世界的偉人にもなろう云々・・・。
下山常夫は、
「ああそうですか」と言ったが、気乗りは全然していない。少し言葉が過ぎたと思った。
コメントなし
弔問者の直感は自殺ではないかと感んじた。
七月十三日
大島刑事・中ノ瀬刑事
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